犬のアレルギーの症状と治療
前編の「アレルギーのしくみと原因」に続いて、後編では症状と治療について詳しくお伝えしましょう。
アレルギーの予防の鍵であり、健康に関わる「肌のバリア」を強くする生活習慣も紹介します。
監修の先生伊從 慶太(いより けいた)獣医師
獣医師・獣医学博士/アジア獣医皮膚科専門医
株式会社VDTの最高技術責任者であり、どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科の主任獣医師を務める。獣医師や飼い主向けのセミナーや書籍の執筆も行なう。
VDT https://www.vdt.co.jp/
どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科 https://magazine.vdt.co.jp/
ライター:金子 志緒
アトピー性皮膚炎の
症状と治療
かゆみや皮膚の赤みから始まり、ダラダラと症状が続きます
アトピー性皮膚炎の症状は、皮膚が薄いところや重なっているところ、毛が薄いところにかゆみが出ます。症状が左右対称に現れるのも特徴。原因が花粉などの環境アレルゲン場合、季節によって症状に浮き沈みがあります。3歳以下で初発することが一般的です。
超初期の症状
- 皮膚にはうっすらと赤みを認める程度
- 目、口、耳、指の間、脇、首の内側、尻をかゆがる
- 普段と比べると犬がなめたりかいたりする回数が多くなる
初期の症状
- 皮膚に明らかな赤みやブツブツができる
- 耳の汚れが目立ったり、耳の中が赤くなる
中期の症状
- 皮膚がむけてかさぶたになる
- 皮膚が黒ずむ
- 耳の中が腫れる
後期の症状
- 肌がゾウの皮膚のように硬く厚くなる
- 広範囲に毛が抜ける
- 耳の穴がふさがるぐらい腫れる
超初期や初期で治療を開始すれば短期間で良い状態になりますが、中期以降は慢性化した状態なので皮膚の症状が取れるまで時間がかかります。かゆみが強い場合は数週間でどんどん悪化していく場合があるので、早めに動物病院を受診することが大切です。
耳の異常は「外耳炎」と呼ばれますが、アトピーが原因になることがとても多いです。なかなか治らない、治療しても繰り返す外耳炎にはアトピーの診断と治療を行うとよいでしょう。
完治が難しいので、長く付き合っていく方法を探します
残念ながら、アトピー性皮膚炎を完治させる特効薬は存在しません。さまざまな抗アレルギー薬が利用可能ですが、あくまでもアトピーの症状を緩和する対症療法であることを意識しましょう。薬物療法に頼るだけでなく、皮膚のバリアを向上させるためのスキンケアや食事管理、アレルゲンの暴露の回避、体質改善療法など多面的に治療を組み立てることで、薬に頼りすぎない管理を行うことができます。また、治療はその都度対応するのではなく、年間を通した治療スケジュールを意識して組み立てるとよいでしょう。
食物アレルギーの症状と治療
アトピー性皮膚炎とほぼ同じ症状です
食物アレルギーの症状や特徴はアトピー性皮膚炎とほぼ同じで、併発することも少なくありません。食べ物が由来なので季節による浮き沈みが少なく、消化器の症状が現れる場合も。6カ月未満で発症するケースや、中高齢で急に起きることもあります。おやつなどのごほうびを無計画に与えている場合はリスクが上がるかもしれません。
主な症状
- アトピー性皮膚炎と同じようなかゆみや皮膚炎、外耳炎
- アトピーと異なり、背中や腰にかゆみが出ることがある
- ウンチがゆるくなる/回数が増える(1日4回以上)
食事試験でアレルゲンを特定し、与えないようにします
アトピー性皮膚炎との鑑別を慎重に行う必要があります。診断には除去食試験と食物負荷試験を行います。症状があるときに与えられていた食材をできる限り回避した食事に約2カ月変更します。症状が緩和した場合は、以前食べていた食材に少しずつ戻してみて、症状のぶり返しがあるのかを確認します。皮膚や耳の症状が強い場合は抗アレルギー薬で症状を緩和しながら、食事を徐々に変更することもできます。
ノミアレルギーの
症状と治療
腰のまわりに強いかゆみがあります
ノミアレルギーには特徴的な症状と発症しやすい時期があります。
主な症状
- 背中から腰まわりにかけてかゆがる
- かゆみが非常に強い
近年は駆虫薬の普及によって症例はかなり減っていますが、旅行やドッグランへ出かけたときにノミがつくこともあるので要注意。
駆虫薬の投与で治療と予防ができます
抗アレルギー薬とともにノミの駆虫薬を投与すると、2カ月程度で良くなります。駆虫薬は予防として使えるので、寄生虫が増える時期には定期的に投与することを検討しましょう。また、ノミに暴露されやすい環境をできる限り回避することも重要です。
アトピー性皮膚炎の最先端の治療法は
「抗体医薬」
アトピー性皮膚炎との最先端の治療は抗体医薬です。近年、アトピー性皮膚炎の犬でかゆみを起こす物質が発見されました。その物質をピンポイントで抑える抗体が開発され、昨年末に日本でも販売が開始されました。かゆみの原因をピンポイントで抑えるので、他の抗アレルギー薬と比較すると副作用がかなり少ないことが特徴です。
ただし、最先端の治療といっても過信は禁物です。アトピー性皮膚炎のかゆみの発生にはさまざまな因子が関わっているので、効果が乏しい場合もあります。また、先述のようにあくまでも対症療法の1つにしか過ぎないので、抗体医薬に頼りきりになり過ぎてもいけません。アトピー性皮膚炎は多面的に治療することを忘れないようにしましょう。
アレルギーを予防する鍵は「肌の保湿」
人では生後間もない頃から保湿剤を毎日使った赤ちゃんは、使わなかった場合に比較してアトピー性皮膚炎の発症率を低減できる可能性が示されています。アトピー性皮膚炎の予防策として、いかに皮膚のバリア機能を強化することが重要であるかがわかります。
犬ではまだ予防の観点からの研究は進んでいないので、保湿の予防効果は不明です。しかし、子犬のうちからスキンケアの一環として保湿を習慣にしておくことは、皮膚病の早期発見や重症化防止の面でも大きな意味があると考えられます。特にアトピー性皮膚炎を発症しやすいリスクがある犬種では高い意識を持ったほうがよいでしょう。
健康の基本は「衣・食・住」です。皮膚の観点から、愛犬の食事や生活環境、ライフスタイルに気を配り、健康を維持することを心がけましょう。