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もしも街で盲導犬に出会ったら

5月22日は「ほじょ犬の日」であることをご存知ですか?
今回は日本盲導犬協会で盲導犬の普及推進に務め、ご自身も盲導犬ユーザーである押野まゆさんに、
意外と知られてない盲導犬の実態について教えていただきました。
私たちが街で盲導犬に出会ったときにどうしたらよいか、盲導犬ユーザーの立場からリアルな声をお届けします。

お話を伺った方押野 まゆさん
(公益財団法人日本盲導犬協会)

2000年に視力を失い、2006年から盲導犬と一緒に暮らしています。現在は3代目にあたる盲導犬バロンがパートナー。バロンと共に日本盲導犬協会で盲導犬の普及推進に務めています。
公益財団法人日本盲導犬協会
https://www.moudouken.net/
日本盲導犬総合センター「盲導犬の里 富士ハーネス」
http://www.fuji-harness.net/

監修佐野 智浩さん
(公益財団法人日本盲導犬協会)

日本盲導犬総合センター(愛称:富士ハーネス)センター長。
『盲導犬や視覚障がいの普及啓発』『繁殖・出産の拠点』『盲導犬育成の場』『共同訓練の場』『引退した犬のケア』等々、多くの機能を持った富士ハーネスの開設当初から普及推進活動に従事し、現在はセンター長として施設を管理しています。

ライター:白石梨沙

INDEX

盲導犬を理解しよう

盲導犬とはどんな犬ですか?

盲導犬とは目の見えない人や、ロービジョンと呼ばれる目の見えにくい人の外出をサポートする犬のことです。盲導犬の役割は大まかに「曲がり角を教える」「階段や段差を教える」「障害物をよける」の3つです。盲導犬に指示を出したら目的地まで連れて行ってくれるわけではなくて、あくまで主体は人にあります。目が見える人は周りの景色を見ながら歩くことができますが、私たちにはそれができません。そのため、曲がり角や段差、障害物といった情報を盲導犬が教えてくれるのです。盲導犬は道路交通法や身体障害者補助犬法という法律でも認められていて、目の不自由な人と一緒に公共の交通機関を利用したり、お店に入ることができます。

どんな犬種が盲導犬に向いていますか?

国内の盲導犬で圧倒的に多い犬種はラブラドール・レトリーバーです。その次に多いのがゴールデン・レトリーバーで、数は少ないですが、ラブラドールとゴールデンのミックスや、シェパードも存在します。ラブラドールが盲導犬に多い理由は、人の指示を聞く素質があり、コミュニケーションが取りやすい犬種だからです。見た目が穏やかで、順応性が高いところも盲導犬に向いています。また、盲導犬はこれ以上進むと危険な時や落ちてしまいそうな高い段差を見つけると、ユーザーが落ちないように前に立ちはだかって教えてくれます。そういった際には、小・中型犬より大型犬のほうが適しているのです。

盲導犬の訓練を受けても必ず盲導犬になれるとは限らないのですか?

日本盲導犬協会で子犬の頃からトレーニングを受けて、盲導犬になれる犬は約4割です。犬によって個性がありますから、得意な面と不得意な面を見極めていくことが重要です。基本的に人間が好きで、歩くのが好きで、いい意味で単純な性格の犬が盲導犬に向いています。

盲導犬のオンとオフ

盲導犬は一日にどのくらい仕事をしているのですか?

盲導犬の仕事は視覚障がい者の外出をサポートすることなので、外出時しかお仕事をしません。盲導犬は長時間働いていると思っている人もいるようですが、私の場合は最長でも3時間程度です。私もたまには映画館に出かけたり、旅行で遠出することがありますが、映画を観ている間や、電車に乗っている間は自由に寝させています。また、外出がストレスに感じる犬は盲導犬にしないため、盲導犬はお出かけが大好きです。盲導犬のお仕事は、「ちょっと特別なルールのあるお散歩」と思っていただけると、イメージしやすいかと思います。私たちは盲導犬が疲れるまで長時間歩かせることはしませんし、ユーザーとどこにでも一緒に出かけられるという意味では、盲導犬は恵まれているのではないかと思います。

オンとオフのスイッチはありますか?

はい、一番のスイッチはハーネスです。ハーネスを装着したら、お仕事のスイッチが入ります。ハーネスを外している時は家庭犬と同じように自由気ままに過ごしています。盲導犬の世話は基本的に私たちユーザーが行います。家庭犬と一緒で、盲導犬も世話をしてくれる人のことが一番好きだからです。「私がきちんとあなたの世話をするから、外出の時はサポートしてね」という関係作りがとても大切なのです。

盲導犬を迎えてよかったことを教えてください。

盲導犬と一緒に暮らすようになり、生活は大きく変わりましたね。今まで、両親に頼って送迎してもらっていた場所にも一人で行けるようになりました。盲導犬を連れて、自分の力で目的地まで歩けるということは、視覚障がい者にとって大きな強みとなります。私は東北出身ですが、「盲導犬がいれば大丈夫だろう」と両親に許しをもらって、静岡に就職することができました。今は一人と一頭で暮らしていて、家のことは料理から洗濯まで一通り自分で行うことができます。

街で盲導犬に出会ったら

盲導犬を街で見かけたときのNG行為はありますか?

盲導犬に出会ったとき「触らない」「犬に声をかけない」「食べ物を与えない」「犬の顔を見ない」の4大原則を呼び掛けています。盲導犬は人が大好きなので、犬好きな人はすぐわかります。だから、電車の中で誰かが盲導犬のことを見ていると、その人に向かってずっとしっぽを振っていることがあるのです。その時、隣に座っている人にしっぽが当たってしまうのでは、と冷や冷やしてしまいます。また、誰かが盲導犬を見てひそひそ話をしていると、盲導犬が振り返ってしまうことも。盲導犬は力が強いので、振り向いた瞬間に引っ張られて転びそうになるのです。さらに、盲導犬によそ見をされると方向がわからなくなることもあるため、ひそひそ話は盲導犬に気づかれないようにお願いしたいですね。

私たちが盲導犬ユーザーのためにお手伝いできることはありますか?

盲導犬ができることは、曲がり角、段差、障害物に対しての情報提供だけです。ですから、もし盲導犬ユーザーが街で困っていたら、「何かお手伝いできることはありますか?」と声をかけていただけると、非常にありがたいです。例えば、盲導犬は信号の判断ができないため、私たちは車の音を頼りに信号の色を判断しています。そのため、赤信号でも車が通っていないと青だと思って渡ってしまうことがあります。そんな時は、信号の色を教えていただけると助かります。他にもバスに乗った時にICカードをスキャンする位置がわからないことがあるので、右か左かだけでも一言教えてもらえると嬉しいです。

犬連れのときに盲導犬と遭遇したら、どうしたらよいでしょうか?

ペット連れの際はぜひとも教えてほしいですね。盲導犬でも犬がいれば気になってしまうからです。ユーザーは盲導犬が何に気を取られているかわからないことが怖いです。だから一言「犬がいます」と言ってくれたら、原因がわかって安心します。

盲導犬にやさしい社会づくりのために

私たちができる盲導犬への支援はありますか?

日本盲導犬協会では盲導犬の飼育に携わったり、私たちと一緒に募金活動を手伝ってくださるボランティアの方を常に募集しています。また、一番お願いしたいのは育成費用の募金です。どこの盲導犬団体も寄付、募金で運営しており、みなさんの善意の支援で成り立っているのです。

最後に読者に伝えたいことはありますか?

2002年に身体障害者補助犬法(※1)によって、盲導犬同伴でのさまざまな場所へのアクセスが保障されたものの、残念ながら、飲食店、宿泊施設、病院などいろいろな場所で同伴での受け入れを拒否されている盲導犬ユーザーの声を受けて、今でも協会職員が店舗や事業者などに直接コンタクトを取り、受け入れへの理解を求めるといった地道な対応を続けているのが現状(※2)です。また、2016年に施行された障害者差別解消法(※3)では、盲導犬同伴での入場・入店を拒否することは視覚障がい者への不当な差別にあたることが認められました。盲導犬はどこにでも同伴できることをみなさんに知ってほしいです。そして、盲導犬に対して「長時間働いているのでは?」「寿命が短いのでは?」といった誤解を受けることがあるので、ぜひ本当の姿を知ってほしいです。盲導犬訓練施設『盲導犬の里 富士ハーネス』は一般見学ができるので、ぜひ遊びに来てほしいですね。

盲導犬ユーザーとして日頃感じていることをリアルに語ってくれた押野さん。日本全体がもっと障がい者にやさしい社会になるために、一人ひとりができることから始めてみることが大事ですね。

〈参考〉

  1. ※1身体障害者補助犬法について(厚生労働省)
  2. ※2盲導犬受け入れ拒否対応事例集(日本盲導犬協会)
  3. ※3障害者差別解消法について(内閣府)