猫のアレルギーの症状と治療
前編の「猫のアレルギーのしくみと原因」に続いて、
後編では三大アレルギー(過敏性皮膚炎)の症状と治療についてお伝えします。
猫の過敏性皮膚炎は解明されていないことも多い分野ですが、さまざまな治療アプローチが存在します。
監修の先生伊從 慶太(いより けいた)獣医師
獣医師・獣医学博士/アジア獣医皮膚科専門医
株式会社VDTの最高技術責任者であり、どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科の主任獣医師を務める。獣医師や飼い主向けのセミナーや書籍の執筆も行なう。
VDT https://www.vdt.co.jp/
どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科 https://magazine.vdt.co.jp/
ライター:金子 志緒
非ノミ非食物誘発性の過敏性皮膚炎
(いわゆる猫のアトピー性皮膚炎)の
症状と治療
皮膚に異常がなくてもかゆがる場合は要注意
食物やノミが原因ではないアレルギー疾患が非ノミ非食物誘発性の過敏性皮膚炎(いわゆる猫のアトピー性皮膚炎、環境アレルゲンの関与が示唆)にあたります。かゆみを繰り返す皮膚疾患です。原因が花粉などの環境アレルゲンの場合、季節によって症状に浮き沈みがあります。
主な症状
- 頭や首をかきこわす
- 頭、首、おなかの皮膚にブツブツができる
- なめ続けて毛が薄くなったり抜けたりするが、地肌に皮膚炎の所見がない
- 上唇、口の中、肉球や腿にしこりや潰瘍ができる
完治が難しいので付き合っていく方法を探します
症状が強い場合は、かゆみや炎症を抑える抗アレルギー薬を投与し、猫のつらさを緩和することから始めます。並行して、猫の皮膚を強くする食事療法食や炎症の緩和効果が期待できるサプリメントを与えてもよいでしょう。
また、原因アレルゲンを推測し、そのアレルゲンに徐々に慣らして体質を改善していくアレルゲン特異的減感作療法という治療もあります。実施にあたっては、皮膚や血液を用いたアレルギー検査が必要です。しかし、猫におけるアレルギー検査は精度や測定可能なアレルゲンの種類に限界があり、確実に原因アレルゲンを特定できるものではないことに留意する必要があります。
いずれの治療も完治は難しいため、長い目で見て猫に負担のかからないような順番、種類、組み合わせで治療を組み立てていくことが必要です。1つの治療、特に抗アレルギー薬に頼りきりにならず、複数の治療を組み合わせることを意識しましょう。
食物誘発性の過敏性皮膚炎の
症状と治療
皮膚以外では消化器症状に注意
食物アレルギーにあたる食物誘発性の過敏性皮膚炎は、食べ物が由来なので季節による浮き沈みがほぼなく(原因が主食のキャットフードの場合)、消化器の症状が現れる場合もあります。
主な症状
- 上記の非ノミ非食物誘発性の過敏性皮膚炎と同じような症状だが、頭や首をかきこわすことが比較的よく見られる
- 下痢や嘔吐が続く
- ウンチの回数が増えたりする
- よだれが垂れる(まれ)
食事の試験で原因を推測
症状が出ていた時に与えていた食材を全て確認し、それらが含まれない食事に約2カ月間変更します。これを除去食試験と言います。除去食試験後に皮膚の症状が改善した場合は、前の食材を少しずつ与えて、症状のぶり返しが起こる食材を探索します。これを食物負荷試験と言います。食物誘発性の過敏性皮膚炎では強いかき壊しを認めることが少なくないので、つらいときは食事の変更と並行して抗アレルギー薬を利用することもあります。
一番の問題は、猫は食事の変化にとても敏感で、食事を変えると食べないことも多々あること。数日間食べないと猫では肝臓に悪い影響が出る場合があるので注意が必要です。食べてよい食材、ダメな食材をしっかりと把握し、興味を引く工夫(トッピングなども可能)をしながら根気よく続けることが重要です。
ノミ誘発性の過敏性皮膚炎
(ノミアレルギー)の症状と治療
腰のまわりをかゆがるのが特徴です
ノミアレルギーには特徴的な症状と発症しやすい季節があるため、比較的見分けやすい皮膚炎です。
主な症状
- 背中から腰まわりにかけてかゆがる
- ブツブツが出る
- 暖かい時期に発症する
- かゆみが非常に強い / 強いかき壊しが起こる
近年は駆虫薬の普及によって症例はかなり減っていますが、屋外へ出る猫は要注意。また、家族の服や靴について室内に入ってくる可能性もあります。
駆除薬の投与で治療と予防ができます
抗アレルギー薬とともに駆虫薬を投与すると、2カ月程度で良くなります。駆虫薬は予防として使えるので、ノミが盛んに活動する時期には定期的な投与を検討しましょう。
ストレスの少ない治療方法を考える
かゆみ動作を防ぐために洋服や包帯、エリザベスカラーを長期間装着するのは控えたほうが無難。猫はグルーミングができないと体調を崩す可能性があるうえ、皮膚の衛生状態を維持できません。猫がシャンプーなどの洗浄処置があまり必要ないのは、日常的なセルフグルーミングがあるからです。定期的な保湿やシャンプーなどのスキンケアは猫にとって負担になる可能性があるので、闇雲に実施することは避けましょう。
快適な「住環境」も重要
過敏性皮膚炎を発症した後、かゆみが悪化する要因にストレスがあります。また、かゆみがあることも猫にとってはストレスです。できる限りストレスを軽減するためにも快適な住環境を作ってあげましょう。隠れる場所、高い場所、遊ぶ道具などを用意し、住環境への配慮を心がけてください。過度な家族とのコミュニケーションもストレスになる場合があります。猫の性格や行動パターンをよく観察し、さまざまな環境への取り組みを行ってみましょう。
過敏性皮膚炎の観点から、食事や住環境に目を向けていくことは、心身の健康につながる可能性があります。猫の目線から、ライフスタイルを見直してみましょう。