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愛犬が吐いた!吐いたモノ別
飼い主がとるべき行動

「愛犬が急に吐いた!」そんなとき、飼い主としてはどのような行動をとるべきなんでしょう。
犬が吐く理由はさまざまですが、食べすぎによる一過性のものから中には命にかかわる危険度の高い場合もあります。
至急病院へ連れて行くべき「吐き」なのか、吐いたモノ別で解説します。

監修の先生内田 恵子 獣医師(元苅谷動物病院グループ統括院長)

小動物臨床に35年間従事した後、現在は動物病院運営のためのアドバイスを開始している。JAHA内科認定医、JAHAこいぬこねこの教育アドバイザーであり、動物病院で動物の入院中ストレスや診察中ストレスを軽減し、病院で問題行動を作らないような技量を広めるため活動中。

INDEX

犬が吐くときってどんなとき?

犬が吐くときにはどのようなものがあるのでしょうか。大きく分けて次の原因を考えることができます。

吐くときに考えられる原因

  1. 1.食事の問題(異物を食べた、早食いした、急な食事内容の変更)
  2. 2.中毒性物質や毒物を摂取した
  3. 3.糖尿病や副腎皮質機能低下症、腎不全・肝不全などの代謝性疾患
  4. 4.胃のトラブル(胃炎・胃潰瘍・胃捻転、異物や胃の幽門部における通過障害※1)
  5. 5.小腸のトラブル(寄生虫や腸炎、腸捻転、異物、腸閉塞など)
  6. 6.腹腔内のトラブル(腹膜炎、腫瘍、膵炎、臓器の腫大など)
  7. 7.食道のトラブル(食道狭窄・拡張、腫瘍、食道炎、異物など)
  8. 8.ウイルス性の伝染病

※1:幽門部という十二指腸へ流れる胃の出口が何らかの原因によって狭くなったり塞がれてしまうこと

他にもストレスや、胃の運動能力の低下で十二指腸から胆汁などの消化液が逆流し、胃のむかつきで吐き気をもよおして吐くこともあります。

同じ吐くでも違う「嘔吐」と「吐出」

もし犬が吐き出す動作をし、口から何か出てきたら、一般的に多くの飼い主さんはその状況を見て「犬が吐いた」というでしょう。しかし、一見同じように思える「吐く」でも、獣医学では口から出るまでのしくみが異なる「嘔吐(おうと)」と「吐出(としゅつ)」に区別します。それでは、「嘔吐」と「吐出」をそれぞれ解説しましょう。

犬の消化器官 口、舌、咽頭、食堂、横隔膜、肝臓、胃、十二指腸、大腸、肛門、盲腸、胆嚢、脾臓、小腸 吐出;口に入れたものが居に到達する前に吐く 嘔吐:胃に到達した後、消化器官内の炎症や何らかのトラブルで吐く

嘔吐(おうと)

嘔吐は、脳にある嘔吐中枢がなんらかの原因で刺激され、「吐く」信号が脳から神経系統を通じて発信されてから胃や十二指腸の内容物が口から吐き出されることをいう。吐き気を催したあと、横隔膜が蠕動(ぜんどう)しゲーゲーと吐きそうな動作をしてから、下向きに吐き出す。吐き出されたモノは消化が始まっている状態。

吐出(としゅつ)

吐出は、神経系や筋肉などの異常、また食道に腫瘍や異物があったりなどのトラブルで、食べたものが胃に到達する前に食道から逆流し吐き出されることをいう。吐き出されたモノは未消化の状態でもう一度食べ直すこともある。頻繁に未消化の食べものを吐き出すようなら吐出の可能性が高い。前に飛ばすような吐き方が特徴。食道拡張、重症筋無力症、若齢の心臓の血管の奇形など、なんらかの理由で食道の運動機能が著しく低下したときに吐出することがある。

つまり、食べたものや飲んだものが胃に入る前に排出されることを「吐出」、食べたものや飲んだものが胃に入ってから排出されることを「嘔吐」といっていいでしょう。このように嘔吐と吐出では診るべき点も変わります。犬の吐く前ぶれを見つけたら、吐く前・吐き方・吐いた後のようすを注意深く観察し受診に備えましょう。犬が吐く前には以下のような前兆が見られます。

犬の吐く前ぶれ

  • 頭を下げる
  • 床をくんくんする
  • よだれが出る
  • 元気がない
  • 具合が悪そうに震えている
  • 隠れて出てこない
  • 吐きたそうにそわそわ動き回る
  • 横隔膜が収縮する

犬が吐いたあと

吐いた直後は、水やフードを与えるのは控えましょう。
胃や腸にトラブルが起きているところに与えると、再び胃腸運動を起こし状態がさらに悪化する可能性があります。吐いた後のようすを見て、回復しないようであれば早めに動物病院を受診してかかりつけ医に相談しましょう。

吐いたときに飼い主がとるべき行動

飼い主さんの心配をよそに、急に吐き出して、吐き終わったらケロッと元気な状態に戻っている場合もありますよね。基本的には飼い主さんが異常と感じたら動物病院を受診した方が安心ですが、このような場合、動物病院へ連れて行くべきか、もう少しようすを見るべきか、判断を迷うこともあると思います。以下のチェックリストの吐き方を参考に、一つでも当てはまったら、なるべく早く動物病院へ連れていきましょう。

急いで受診した方がよいケース

  • 激しく吐いている
  • 一度に何回も吐く
  • 吐いた後も元気と食欲がない状態続いている
  • 吐く動作を頻繁にしていて元気がない
  • 吐いたものに血が多く混じっている
  • 吐いて下痢もしている
  • 脱水して皮膚に張りがなく目がくぼむ
  • 毎日1回でも数日以上嘔吐が続いている
  • 吐いていて徐々にやせてきた
  • 吐しゃ物の中に虫がいた
  • 思い当たる誤飲・誤食の可能性があり、中毒の可能性がある

また、動物病院を受診するときは、少なくとも以下の情報を伝えられるよう観察しておくと適切な診断を受ける上で役立ちます。

受診時に獣医師へ伝えたい情報

  • 吐いたのは1回か?複数回か?いつから始まったか
  • 最後に食べた食事からどのくらい時間が経っているか
  • どんな吐き方をしていたか
  • どんな吐しゃ物だったか
  • 吐いたあとのようすはどうか
  • 下痢や熱などの他の症状はあるか

さらに、吐いた実物を持参するか、難しければ写真や動画を撮影して獣医師に見せるとよいでしょう。また持参するときは、テイッシュなどでくるむと吐しゃ物は吸われてしまうため、アルミホイルやラップなどを利用するとよいでしょう。

主な吐いたモノの解説と動物病院を受診する緊急度の目安

それでは最後に、犬の主な吐しゃ物にはどのようなものがあるか解説します。受診の緊急度の参考にしてください。

透明な液体

主に直前に飲んだ水や胃液などが逆流したものと考えられる。ストレスによる胃のむかつきや空腹時による胃酸過多が原因によるものが多い。多くはすぐに収まるが、何度も繰り返し吐くのが続くと脱水症状になることも。続くようなら早めに受診しましょう。

黄色い泡

空腹が過ぎると胃酸過多で胆汁混じりの黄色い液体を吐くことがある。ごはんの量は変えずに与える間隔時間や頻度の見直しなど、空腹にさせない工夫をすれば問題なく落ち着くことが多い。ただし、肝炎や腎臓病の初期症状として黄色い液体を吐くこともあるので続くようなら早めに受診しましょう。

緑色・緑色の泡

緑色の液体や泡を吐いたとき、膵臓の炎症や胆汁が多量に分泌されたときに出る色です。誤って異物を飲み込んだときなど、その異物を消化しようと胆汁が大量に分泌されることがあります。異物が腸につまり腸閉塞を起こした場合なども緑色の液体を吐くことがあります。特に腸閉塞は短時間で命を落とすこともあるため、至急動物病院へ連れていきましょう。

未消化フード

早食いや勢いよく一度にたくさんの量を飲み込んだりすると、胃まで到着する前に吐き出してしまったり(吐出)、胃の消化が追いつかずほぼ未消化の状態で吐き出してしまうことが多い。吐き出されたフードの消化状況から、どの器官で異常が起きたのか推測しやすく、半分ほど消化が進んでいれば胃、ほぼ消化されている場合は十二指腸や腸が考えられる。ゆっくり食べているのに消化途中で吐き出す場合は、なんらかの原因で消化器官の機能が低下している場合も。

ヒモ類や、おもちゃ、キャップなど、食べものではない異物

誤飲などで異物を飲み込んでしまったときは、体内から異物を排出するまで何度も嘔吐をくり返したり、何も出ないのに吐くしぐさをくり返すことがあります。すべて吐き出せれば回復することもありますが、体内の消化器官を傷つけていることも。気づかれず異物が体内に残ったまま、モノによっては腸閉塞を起こす場合もあるので、思い当たる節があれば早めに受診して検査を受けるのがいいでしょう。

寄生虫

吐しゃ物の中に、動くものを見かけたら寄生虫の可能性が大きいです。多くの場合、寄生虫は便にも混じって排出されるので、便にもいないか確認してみてください。寄生虫の感染は子犬に多く、なかには人にも感染する虫もいます。寄生虫を見かけたら写真や動画などを撮影し、すぐに病院へ連れていきましょう。多頭飼いの場合は、同居動物すべてに駆虫をしましょう。

ピンク色の液体

ピンク色から赤い色をした液体は、口の中の出血、胃や腸から出血している可能性があります。出血性胃腸炎や十二指腸炎の場合もあります。もしも、鼻からも同じピンク色のような血が出たら心臓性肺水腫の可能性もあるので、できるだけ早く受診しましょう。

赤い液体〜赤黒い液体

鮮やかな赤い液体の場合は、体内からの出血の可能性が高く、胃腸や肺などのトラブルが考えられます。赤黒い場合は、消化器官内にできた腫瘍の破裂、もしくは呼吸困難を起こす心臓性肺水腫などの呼吸困難など重篤なケースが多く、赤い血を吐き出したら至急動物病院へ連れていきましょう。また、液体以外にも、胃ガンの場合、赤黒い血の塊を吐き出すこともあります。

吐くことは、多くの疾病や健康になんらかのトラブルがあったときに現れる代表的なサインといってもよいでしょう。日頃からよく観察し、飼い主さんが「いつもと違う」「なにかおかしい」と感じたら、緊急度に関わらず、すぐにかかりつけ医に相談するようにしましょう。