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犬のオーラルケア

愛犬のオーラルケアが大事だとはわかっているものの、ついつい怠りがちな飼い主さんも多いはず。
デンタルケアグッズもたくさんあるけれど、ちゃんとした方法を知っていないと、
歯が摩耗したり、歯周病などの口腔疾患になることもあります。
そんな犬のオーラルケアについて、フジタ動物病院院長 藤田桂一先生にお話を伺いしました。

お話を伺った先生藤田 桂一 獣医学博士・獣医師
(フジタ動物病院院長)

「心と心の触れ合いを大切に」をモットーに、質の高い医療サービスを提供し、歯科・口腔疾患において二次専門病院として位置づけられる「フジタ動物病院」(埼玉県上尾市)の院長。日本小動物歯科研究会会長をはじめ、獣医療の多くの学会・研究会の理事や評議員を務め、獣医学術専門誌、AHT専門誌、および小動物情報誌の執筆も手掛けている。
http://www.fujita-animal.com/

ライター:山ノ上ゆき子

INDEX

歯垢は3日で歯石に変化!
小型犬の9割に歯周病の可能性が

人間と同様に雑食である犬ですが、歯の構造はかなり違っています。乳歯から永久歯に生え変わる「二生歯性(にせいしせい)」は同じですが、大きな違いは歯の構造です。犬の歯は、全て尖っているのが特徴で、永久歯は、人間の前歯にあたる切歯が上6本、下6本、犬歯が上2本、下2本、奥歯にあたるのが臼歯で、前臼歯と後臼歯があり、前臼歯が上8本、下8本、後臼歯が上4本、下6本の計42本が並んでいます。臼歯というと、臼のような形を想像するかもしれませんが犬の場合は、尖っていて、歯の噛み合わせも特に上の第4前臼歯と下の第1後臼歯は、ハサミの刃同士が合わさるような鋏状咬合(はさみじょうこうごう)になっています。

歯と本数の図(切歯:上6本、下6本)(犬歯:上2本、下2本)(前臼歯:上8本、下8本)(後臼歯:上4本、下6本)※永久歯の場合

ちなみに人間の奥歯は、うすのような形のすり鉢状咬合で、噛むことで食べ物をすり潰すことができるのですが、犬の歯は下の歯を上の歯が覆う構造で、特に上の第4前臼歯と下の第1後臼歯はハサミのように、フードを挟んで砕いたり肉を切り裂く役割になっています。また、人間の口の中が弱酸性なのに対して、犬の口の中はPh7.5~8.5の弱アルカリ性。虫歯にはなりにくいのですが歯垢がつきやすい環境です。そのため犬の歯垢は、3~5日で歯石に変化し、歯周病を引き起こします。

犬には、鼻先から口までかけたマズル部分と頭蓋骨までの長さの比率が異なる長頭種、中頭種、短頭種があり、それに伴ってあごの形が異なります。歯の数はどの犬も同じ42本の永久歯が生えるので、長頭種は歯と歯の間がゆったりとしているのに対して、短頭種は狭いあごに歯が密生するため、食べかすや雑菌、口の仲の粘膜細胞などが残りやすく、歯茎の炎症が起きやすくなっています。特に小型犬は、乳歯が抜けずに残ったり、歯が重なって生えてくる状態も見られるので、愛犬の歯並びがどうなっているのかチェックをしておきましょう。さらに、小型犬は、あごの骨が大型犬よりも薄いのに対して、歯は比較的大きく、特に下あごの中で最も大きい第1後臼歯の歯の根元が下あごの骨の下部に近いところに位置しています。歯周病で歯の根元の周囲のあごの骨が溶けて骨折を引き起こすことも少なくありません。したがって、オーラルケアがとても重要になります。実は、1歳未満の小型犬の約9割は、すでに歯周病の可能性があると言われています。歯周病になっていて悪化すれば、上あごであれば上あごの骨が溶けて鼻汁や鼻出血が起こる、下あごの骨折を引き起こす、皮膚に穴が開くなど、重い病気になることもあります。できれば、子犬のうちからオーラルケアを習慣づけておくのがよいでしょう。

硬いガムやヒヅメは、
歯の破損の原因に!
犬の歯は人間よりも弱い?!

同じ家庭で暮らす同じ犬種であっても、歯石が多い犬と少ない犬がいることをご存じでしょうか? それは、犬が普段口にしているモノや性格によって違ってくるのです。ドライフードを食べ、イタズラ好きでいろんなモノを噛むタイプのワンちゃんは、比較的歯石が少なく、ウェットフードしか口にしないタイプのワンちゃんは、歯石が多い傾向があります。「だったらうちの子は、ガムを噛んでいるし、ロープなどのおもちゃを毎日噛んでいるから大丈夫」と思うかもしれませんが、与えるガムやおもちゃにも注意が必要です。犬にとって重要な歯は、唯一、噛み合わせて食べ物を砕くことができる1番大きな歯、上の第4前臼歯と下の第1後臼歯です。たとえば、非常に硬いものを子ども用のハサミの刃の間に入れて切ろうとしてみてください。無理に切ろうとするとハサミの刃先が摩耗したり、折れたり、噛み合わせが歪むことがあります。実は、硬いものを噛む犬の奥歯も同じことが起こるのです。特に硬い生皮や硬いデンタルガム、ひづめ、骨、プラスチック、金属、硬いゴムなどのおもちゃも要注意。犬の歯は人間の歯ほど強くありません。与えるなら手でもってしなるぐらいの薄いガムや無理なく砕ける硬さのデンタルガムが良いでしょう。また、コットンロープやテニスボールなどの比較的柔らかいものでも、ずっと噛み続けると歯や歯茎を傷めることがあるので、一日中与えっぱなしではなく、時間を決めて遊ばせてください。

こんなしぐさや症状があったら口腔疾患かも
気づいてあげようお口のトラブル!

うちのワンちゃんは大丈夫かしら?と思ったら、まず口の健康チェックをしてみましょう。口をあけて、歯のつけ根に歯垢や歯石がついていないか、歯茎が赤くなったり腫れたりしていないか、歯が折れたり削れたりしていないか確認してみましょう。上の後臼歯のそばに唾液腺の出口があるので、唾液中のカルシウムやリンが歯垢に付着して歯石へと変化するので、その周囲が特に歯周病になりやすいのです。しっかり見ておきましょう。また、口の中に何らかの疾患がある場合、口の中以外にも以下のような行動やしぐさがあらわれることがあります。

口腔疾患が疑われる行動やしぐさ

  • 口臭がある
  • 口の周りを触られるのをいやがる
  • 口を開くことをいやがる
  • よだれが多い
  • 硬い物を食べなくなった
  • 食べる時間が長くなった
  • 食事をしているときによくこぼす
  • 片側の歯だけで咬んでいるようだ
  • 食事中に奇声を上げる
  • 食欲はありそうだが、食べられない
  • 食事中に片方に頭を傾けている
  • 口の中に入れたものをすぐ出してしまう
  • 口を床や地面にこすりつける
  • 前肢で口の周りをぬぐうしぐさをする
  • ペロペロしなくなった
  • くしゃみや鼻水が出る
  • 性格が凶暴になった

歯垢・歯石に含まれるアミノ酸が細菌によって分解される時にイオウのガスと同じ成分が出るため、ワンちゃんに口臭があれば要注意。正常のワンちゃんは口臭がありません。最近ペロペロしなくなったなど、他にも気になる症状があったら、動物病院で具体的な症状を伝え「口腔疾患」の可能性について診てもらうと良いでしょう。

最大の歯周病予防は毎日の歯磨き!
上手に歯ブラシできるようになろう

デンタル効果をうたったグッズもたくさん出ていますが、1番良いオーラルケアは、歯ブラシを使った歯磨きです。歯ブラシの毛先は、歯と歯茎の間のポケットに届きやすく、歯垢をかき出すのに最適です。まずは、正しい歯磨きの方法を知っておきましょう。使用する歯ブラシは、人間用のものでОKですが、毛が柔らかく毛先が細いものを選んでください。歯の小さい小型犬の場合は、ヘッドの小さい乳幼児用や犬猫用デンタルブラシが良いでしょう。乾いたままの歯ブラシだと、歯茎を傷つける場合があるので、必ず水で濡らすか、あるいは歯磨きペーストなどをつけて使ってください。

歯ブラシは親指と人差し指ではさむペングリップで持ちます。磨き方は、肩の力を抜いて、脇を閉めて、歯ブラシの毛先が少したわむ程度の軽い力で、歯と歯茎の境目に45度になるように歯ブラシの先を当てて、左右に小刻みに毛先を動かします。大型犬の場合は、ローリングさせながら磨くのも良いでしょう。しかし、いきなり歯ブラシで磨くのは、犬も飼い主さんにとってもハードルが高いはず。
そんな時は、①~④のようにステップを踏んでいくのがオススメです。

① 口をさわることからスタート

犬がリラックスしている時に、そっと口をさわってみましょう。そして、さわらせてくれたご褒美に好物の食べ物を与えます。これを繰り返し、徐々に慣れてきたら、唇をめくって、ほめてご褒美を与えます。この段階では、口を触られたら、いいことがあると覚えてもらうことが大切です。

② デンタルシートやガーゼで歯を拭きましょう

口をさわられることに慣れたら、デンタルシートや犬用歯磨きペーストで濡らした綿棒、またはガーゼなどで、犬の歯の側面をなでてみましょう。嫌がらずにさせてくれたら、褒めてご褒美に好物を与えます。慣れてきたら口を閉じたまま、今度は上の歯の外側を拭いていきましょう。

③ 口を開いて、歯の内側もチャレンジ

歯の外側を拭かれることに慣れてきたら、マズルを上から包むように、上あごの犬歯の後ろ側の歯のない部分に、人差し指と親指を入れて、犬の頬の皮膚ごと、巻き込むようにすると口が開きます。そして、下の歯の外側や上下の歯の内側も拭いていきましょう。ご褒美も続けます。

④ おいしい味をつけて、歯ブラシ磨きに挑戦!

歯の裏側まで触れるようになって、初めて歯ブラシに挑戦します。まずは歯ブラシに愛犬の好きな缶詰の汁やおいしい歯磨きペーストなどをつけて、ヘッドを口に近づけ舐めさせましょう。そして、徐々に歯ブラシを口の中に入れ、閉口での外側から磨くことにトライし、できるようになってから開口して磨きましょう。

藤田先生からのアドバイス

歯磨きは気合をいれずにトライ!便利なグッズとの併用もOK

一番良いのは、歯ブラシでの歯磨きですが、飼い主さんが気合を入れて「ヨシ、磨くぞ!」と頑張ろうとすると、力が入りすぎてしまったり、その気持ちをワンちゃんが察知して失敗します。歯磨きは、一日のリラックスタイムの中で何気なくやり、必ずご褒美を与えて良いイメージで慣れさせていくのがオススメです。また、歯磨きシートや液体はみがき、口腔スプレー、人の力でしなる程度の柔らかめのデンタルガムなどを併用するのも良いでしょう。ただし、すでに歯周病などの口腔疾患がある場合は、歯磨きをすると痛みを伴う危険があるので、まずは動物病院での治療を優先してください。また、自宅でハンドスケーラーなどを使用した歯石取りを行う場合、ハンドスケーラーによって歯の表面にできた細かい傷に歯垢がたまりやすくなり、除去以前より歯石が多くつきやすい環境を招くことになってしまいます。さらに、犬にとって痛みや恐怖も伴うのでジッとしているのは困難で口腔内まで傷つける恐れもあるため、歯石取りは獣医師が麻酔下で行うのが安全です。麻酔下では、超音波スケーラーなどで歯垢・歯石を除去し、歯周ポケット内の掃除、歯の表面をツルツルに研磨するポリッシングで歯垢が付着しにくい状態まで徹底した除去を行うことができます。できれば動物の歯科用のレントゲンがある歯科に詳しい獣医師のいる動物病院がオススメです。