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こねこ塾に潜入! Vol.1
〜猫の社会化ってなに?〜

猫ちゃんが家族の一員として生涯、幸せに暮らすために、子猫の頃にやっておくべき教育や環境づくりがあります。
猫の室内での適正飼育をしっかりと学んでもらうことを目的に、子猫の飼い主さんを対象に「もみの木動物病院」で
実施している「こねこ塾」に潜入。その内容をご紹介します。

お話を伺った方村田 香織 獣医師
(もみの木動物病院)

兵庫県神戸市にある「もみの木動物病院」の獣医師。犬や猫の攻撃行動、無駄吠え、不適切な排泄などといった問題行動の治療やしつけを専門に活躍中。飼い主とペットが楽しく幸せに暮らすための教育を、こころのワクチンとして執筆・講演活動を通じ多方面に取り組む。著書に『こころのワクチン』『パピーケアスタッフBOOK』など。
http://www.mominoki-world.net/

INDEX

こねこ塾ってどんなことをするの?

かつて、猫は外と家を自由に出入りし、家で過ごすのはごはんと寝る時、という飼い方が多かったので、しつけや室内の環境づくりをあまりしなくても、なんとなく猫と暮らしていけました。けれども、今は完全室内飼育が主流。猫が健康で長生きするためには室内飼育が推奨されていますが、室内だけの暮らしは猫にとってはどうしても刺激不足になりやすく、近年、それが原因で起こる問題や相談ごとが増えてきているそうです。
そこで、もみの木動物病院では、猫ちゃんと飼い主さんの双方が幸せに暮らせる知識とコツを学べるよう、子猫の飼い主さんを対象とした「こねこ塾」(全4回コース)を3年前から実施しています。

参加者は、初めて猫と暮らす人、猫の飼育経験はあるけれど完全室内飼育は初めての人、純血種(洋猫)を初めて飼う人などさまざまです。取材当日には生後約3カ月半〜5カ月半の子猫と暮らす4組の飼い主さんと3匹の子猫が参加しましたが、皆さん、猫飼育経験者で、「ちゃんとした知識を身につけたい」「猫が嫌がらない方法を学びたい」「先代猫が人見知りで激しい性格だったので穏やかな子に育てたい」などの理由で参加されていました。写真や動画を使った村田先生のお話に耳を傾け、連れてきた猫ちゃんとの実践を交えつつ、約60分の講義は進んでいきました。

子猫の頃はいろいろなものに
慣らす「社会化」のチャンス!

「社会化」とは動物が仲間の動物との適切な社会行動を学習する過程のことで、猫では生後2週齢~9週齢頃が最も社会化に適した時期(社会化期)とされています。子猫の頃はともに暮らす仲間とのコミュニケーション方法を学び、絆を築いていく時期であり、さまざまなものに慣らすチャンスというわけです。室内飼育の猫は部屋の中の刺激にしか触れていないので、いろいろな変化が苦手になりがちです。こねこ塾では、いろいろなものに慣らす社会化のやり方を具体的に紹介してくれました。村田先生のおすすめは、さまざまな音や移動に慣らすために猫ちゃんをキャリーバッグに入れてお散歩に行くこと。外で出会った人にキャリーバッグ越しにオモチャで遊んでもらったり、おやつをもらったりふれあいの機会をつくることで、人にも慣らすことができます。自宅では犬・猫の鳴き声などさまざまな音をパソコンの動画などで見せたり聞かせたりするのも効果的。特に、2016年に発生した熊本地震や鳥取県中部地震の際には、繰り返し鳴り響く「緊急地震速報」の音に反応して猫が怯えたり、ストレスを感じたりしたので、子猫の時に聞かせて慣らしておくとよいとのことでした。

また、匂いを嗅ぐことも刺激になります。当日は、人、犬、他の猫の匂いのついたタオルを参加していた子猫たちに嗅いでもらう実践をし、それぞれの反応に盛り上がりました。
社会化は、怖い経験をさえてしまうと逆効果になるので、怖がらせないように注意していろいろな経験をさせることが重要だそうです。

猫のニーズを満たすために
必要な10のモノ・コト

人と一緒に暮らしている猫は獲物を探したり捕らえたりする必要はありませんが、本来、猫は捕食動物でその本能を持っていますから、本能を満たしてあげる必要があります。こうした猫の習性を正しく理解して室内の環境を整えることで、猫ちゃんも飼い主さんも幸せに暮らせるようになるのです。猫のニーズを満たすために必要なものを10個に整理して教えてくれました。

1.栄養バランスのとれた適切な食事と水

偏食を予防するために風味や食感の異なるものも与えることが大事。穴を空けたペットボトルなどにフードを入れて与えれば、転がして遊びながら食べ
ることで、捕食行動のニーズを満たすことができます。水も十分に飲めるようにしておきましょう。

2.ねこ草

ねこ草は室内飼育の猫にとって数少ない自然との接点なので、ぜひ与えましょう。
(ただし、たくさん食べすぎて吐くようならば途中で取り上げましょう)

3.快適なトイレ

落ち着ける場所に設置し、こまめに掃除を。多頭飼育の場合は猫の数+1個用意しましょう。

4.爪とぎ

材質や置く場所など、猫のお気に入りのものを見つけましょう。

5.外が見られる場所

窓から外を見えるように工夫を。動くものを見たり、音を聞いたり、風に乗ってくる匂いを嗅いだりすることは刺激になります。ただし、転落や脱走に
はくれぐれもご用心。

6.上下運動ができる場所

猫は上下運動をする動物。キャットタワーなど猫が上り下りできる場所を用意しましょう。

7.隠れることができる場所

猫は本来臆病な性格。怖いと思ったときに隠れることができるハウスなどを用意しておきましょう。

8.おもちゃ

お気に入りのおもちゃでしっかり遊んであげましょう。

9.社会的刺激

さまざまな人や犬、猫などとの楽しいふれあいの機会を持ち、社会化期が過ぎた後も継続しましょう。

10.メディカルケア

室内飼育でもワクチン接種は必要。生後6カ月までに不妊去勢手術をし、その際にマイクロチップも入れるとよいでしょう。また、定期的な健康診断と
デンタルケアも行いましょう。

咬み癖をつけないためのポイント

子猫の飼い主さんからの相談で、特に多いのが「じゃれ咬み」。子猫同士のじゃれ合いや甘咬みは猫本来の行動で、仲間同士で加減を学んでいきます。けれども、相手が人となると猫も加減がわからないし、人の手足も傷だらけになることがあります。咬み癖がついて成猫になってからも続けば、たまったものではありません。特に一緒に遊べる仲間のいない1頭飼育では咬み癖がつきやすくなるとのこと。咬み癖のある猫の動画を紹介しつつ、じゃれ咬み癖をつけないポイントを教えていただきました。

  • 人の手足をおもちゃにして遊ばせない

    人の手足を使ってじゃらしていると、人の手や足を咬む猫に育ちます。

  • 手足を狙っている時には、止まる・隠す・立ち去るなど、相手にしない

    特に1歳くらいまでは十分に気をつけましょう。

  • おもちゃを使って十分に遊んであげる。

    子猫が疲れるくらいにたっぷり遊びます。

村田先生からのメッセージ

「こねこ塾」では、診察・入院・治療・ペットホテルなどで動物病院に来る猫ちゃんたちを見て感じたことや、飼い主さんからよく相談される困った行動の予防として必要だと思われることをお伝えしています。自由に外を行き来していた時代と違い、室内飼育の猫では刺激不足になりがちなので、ニーズをしっかり満たし、猫本来の正常な行動ができるように飼い主さんにも猫との暮らしをしっかりと学んでほしいと思います。特にいろいろなものに慣らす「社会化」はとても重要。オトナになってからでも慣らしていくことができますが、かなり時間がかかるので、できるだけ早い時期から、多くの人とのふれあいやさまざまな刺激に慣らすことを心がけてください。